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彼女が好きだったドラマを流せばテレビが歪む、猫が何もない所で喉を慣らすものだから撮れば猫が歪むーーそういえば、彼女が休みの日は僕の家に入り浸るものだから、人見知りの激しい猫が珍しく彼女には懐いていたものだと思い出したーー、何となしに部屋を撮ればそこかしこが歪む。
六畳半の狭い部屋の中を彼女は歩き回っているらしい。
ーーいまどーこだ
そうLINEが来れば僕は部屋をパノラマ撮影して彼女の姿を探した。歪んだ場所があれば、
ーー見つけた。
ーーバレたか。
などと呑気なやり取りをする。
隠れ鬼の様な遊びに興じるのも、暇潰しにはちょうど良かった。
職場に彼女のスマホを持っていく事はなかった。
何となく、以前の様な日常を疑似体験してみたかったのかもしれない。
職場で一人の時にソシャゲをしたり、彼女と取り留めのないLINEをしたり、そういった日常を心のどこかで求めていたのかもしれない。
これは僕が、今の所唯一感じている彼女の死へ対する哀傷の様なものなのだろう。
LINEがなければ彼女と意思疎通は不可能だ。
例え彼女が僕の後ろに張り付いていても、僕は気付かない。わからないから、いないのも同然だ。
ーー仕事行ってくる。
ーーいってらー
シャワーを浴び、支度を整えて家を出る際、彼女は引き留めない。
肩越しに部屋を振り返れば猫が喉を鳴らしながら何もない空間に向かってじゃれついている。
彼女と遊んでいるのだろう。
僕は見ることも触ることも出来ないけれど、猫は可能なのだろうか。
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