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長くはもたないと知りながら、麻薬の様な甘い日々に耽溺する。
それで良かった。
それが良いのだと感じていたのは僕だけだったと知ったのは、彼女の両親から訃報が届いた時だった。
十月三十一日。
彼女と通話しないまま帰宅した日の事だった。
世間がハロウィンに浮かれるその日に届いた一通の手紙は、三日前に彼女が逝去した事を報せるものだった。
仕事帰りにポストから取り出した封筒は、チラシに埋もれながらも異彩を放っていた為かすぐ目に付いた。僕の名前と、彼女の苗字、その下に彼女の両親と思しき人名が綴られたそれを手に取った瞬間、背筋に悪寒が走った。虫の知らせと言うには遅すぎる衝動に駆られて、帰宅して直ぐに中身を確かめる。
所々に涙で滲んだ痕跡のある手書きの文字が羅列された文面を読み終わった後、僕はスマホを手にした。
LINEを開く。
一番上のトーク履歴の日付を確認する。
十月三十一日、午前六時半頃。
平素と変わらぬ、なんでもない様な彼女からのLINEが来ていた。
三日前に死んだ筈の、彼女からのLINEが。
朝方なのにケーキが食べたいという彼女の文面を読み返して、僕は、うっそりと微笑んだ
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