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だから今回も、例え幽霊といえど実質デートに当たるのだから、二人分のチケットを購入する事が必然のように思えたのだ。
彼女は実体のない自分に金を払わせることに躊躇いがあったようだが、結局僕は券売機の前で逡巡した後、二人分のチケットを購入した。
ーー別にいいのに。
ーー仕方ないだろ。そもそも、デートしたいって言い出したのは君だろ。
ーーだからってさぁ…
ーーいいじゃないか。そっちの方がデートしてるって実感が持てる。
数分間、彼女からの返信はなかった。
やっと返ったのは
ーーばか。
簡潔な一文だった。
彼女の分のチケットを財布に収納して、自分のチケットを改札に通して入館する。
水族館なんて初体験の僕は右も左もわからぬままとりあえず順路に沿って進む。
閉館まで四時間を切っているというのに、彼女は至る所で立ち止まっては写真撮影を要求した。
当然、彼女のスマホでだ。
彼女はイルカだとかアザラシだとかジンベイザメをスルーして、水面を撮りたいと言って、魚介類が通り過ぎた後の水面を撮影する事に必死だった。
そこそこ広い水族館で一周するのに一時間では足らないというのに、彼女は一箇所で二、三十分は留まってシャッターを切ることを要求する。
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