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平日の夕方とはいえそ前述の通りこそこ人入りの多い水族館で、何もない水槽に向かってスマホを構え続ける男はさぞかし奇矯に映った事だろう。
僕には海産物の展示会にしか思えない場所で、その肝心要の展示物がいない陳列場所に一体どんな魅力があるのかまるで理解が及ばなかったが、彼女は執拗に水面に拘り続けた。
ーー光の差し込む水底がきれいなの。水泡がキラキラして、なんていうか、星空を眺めてるみたいで。
ーーじゃあ星空見るなりプラネタリウム行くなりした方がよくないか?
ーーそういうとこがわかってないんだよ~
理解するつもりはないが、僕は彼女が求めるまま、彼女の指示に従ってシャッターを切る。
閉館まで二時間を切った水族館はナイトモードなるものへ移行し、館内の照明が暗く落とされた。
彼女はこの時間が好きらしくはしゃいでいる。
水槽のライトが映えて一層水面が美しく映るのだとか。
確かに僅かな光源を水槽のライトに頼るしかないシチュエーションは、ロマンチックであるかもしれない。学生と思しきカップルが手を繋いで分厚いガラス越しの海へ魅入っている様を通りすがりに見掛ける。今更にここがデートスポットとして有名だった事を思い出した。
仄暗い通路を、水槽が照らす標に倣って進んで行く。
閉館まで時間がないので彼女も撮影のペースをあげていっていた。
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