ひかりにおちる

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大水槽と呼ばれるこの館の名物に辿り着いた時、彼女は音楽が聴きたいと言った。 ーーイヤホン持ってる? ーーある。 ーーじゃあiTunes開いて。 ーーなんて曲? ーーアクアテラリウム 僕は彼女のスマホにイヤホンを刺して、曲名を検索する。どうやら彼女は未だにLINE以外自分のスマホをまともに操作出来ないらしく、音楽でさえも僕に任せっきりになるのだ。 一緒に聴きたいと言いながら、イヤホンを付けているのは僕だけだ。 目当ての曲は見つかったが、果たして彼女も聴けるのだろうか。 疑問に思いつつ曲を再生する。 透き通る女性のボーカルが美しいメロディで歌を紡ぐ。どうやら海と、それにまつわる恋のうた、の様だ。 ーーこれ聴きながら眺めるのが好きだったんだ。 ーー聴こえてる? ーーうん。聴こえてる。 感受性欠如気味の僕にその浪漫は理解出来なかったが、それよりも彼女が確かにこのスマホに宿っているのだと再認識出来た事実が僥倖だった。 少し甘さを孕んだコーラスを分かち合いながら、僕らは二人で大水槽に泳ぐ彩どりの生物の舞を眺めていた。 帰路、彼女はいつになく上機嫌、の様に見受けられた。LINEの返信スピードが速いし、彼女にしては珍しく顔文字や絵文字も使っていたからだ。 ーー機嫌いいな。     
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