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ーーだって、こういうデートらしいデートってほとんど初めてじゃない。
ずっと君の家にこもりっきりだったからさ。
確かに、生前僕らの付き合いは簡素なものだった。
彼女が僕の家に来て、ゲームをして、映画を見て、たまに近所を散歩して、眠くなったら寝て。たったそれだけだ。
二人で連れ立って何処かへ、そう、今日の様なデートスポットに出向くなんて事はまずしなかった。喫茶ライオンも徒歩圏内で、たまには店で淹れた珈琲が飲みたいという気分が、本当にたまたま、ノったから出向いただけだ。
彼女は度々出掛けたそうにしていたが、僕が面倒臭がって引きこもっていた。
友人とバイクでツーリングして小旅行に出掛けたりはあったが、彼女はバイクも車も免許を持っていなかったので、彼女と遠出する気にはならなかったのだ。僕は出掛けるならバイク以外の交通手段を好まなかったから、彼女が望む場所へ行く為に電車を使うのは億劫で仕方なかったし、彼女を後ろに乗せて走るのも自分のペースが乱されるみたいで嫌だった。
思い返せばえらく自分本位な彼氏だなと自嘲する。
誕生日もバレンタインもクリスマスも、どんなイベント事であっても僕らは特別な過ごし方をしなかった。
ただダラダラと、家でお互い好きに食べて寝て仕事前に別れる、それだけだった。
ーー君が夜勤明けにこんなとこまで付き合ってくれると思わなかった。
ーーまあ、今日は休みだしな。
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