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「朝焼けが好きなんだ。白く明けてゆく空、ってやつ。好きな歌手が歌ってるの。あんまり自分で見る機会はないんだけどね。友達がSNSにあげてる写真見て、綺麗だなって。
そう、思うの」
葬儀は簡素なものだった。故人の意向らしい。
参列者は親族と、ごく近しい間柄にあった友人達のみで占められている。
そもそも友人に余り自分の死を知られたくないと、両親へ遺された遺書に認めてあったのだとか。
自殺なんかしておいてよくそんなことを言う。
小さな葬儀場でまばらに点在する喪服の一団が粛々と、時に嗚咽を漏らしながら読経を聞く様を眺めながら、僕は煙草が吸いたいなどと考えていた。
お焼香の際に見た彼女の顔は綺麗なものだった。
腕のいいエンバーマーに当たったのだろう。
地黒を気にしていた彼女の肌は白く透き通ってて、伏せられた睫毛は影を落とす程長く、唇もピンクのルージュが彩を添えていた。
綺麗に整えられた彼女の死に顔を見て、これが彼女の肉体との今生の別れになるのだと理解しつつも、彼女自身との別れを実感することはなかった。
何故なら彼女は、まだ僕のそばにいる。
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