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「あの、さ。陽一、飲んでほしいものがあるんだ?」
「ん?」
ゆっくり顔を上げると、テーブルにティーカップが置かれた。
赤い色に、わずかにピンク色が入っている温かな液体。甘い花の匂いがする。
「これって…」
陽一は眼を見開き、羽月を見上げた。
「うん。約束したオリジナルブレンドの紅茶。できたから飲んでほしいんだ」
羽月は恥ずかしそうに頬を染め、眼を伏せた。
「…そっか。できたんだ」
陽一は両手でカップを持ち、一口飲んだ。
…正直、少しだけ恐怖はあった。今はもう六年も前になるあの事件以来、紅茶は一口も飲んでいなかったのだから。
でも今は違う。
羽月が自分と共に生きる為に、作った決意の証だ。
「美味しい…! 花の甘い匂いがするのに、すっきりした感じが良いな」
「良かった。…実はこの紅茶の材料、陽一の住む土地から採れたものなんだ」
「えっ? そうなのか?」
「うん。ホラ、陽一に頼んでいくつか材料を送ってもらったでしょう?」
「ああ…アレは紅茶に作ったのか」
半年ほど前から、羽月にウチで採れる花や果物が欲しいと言われ、いくつか送っていた。
てっきり店に置く商品のことで、必要なのかと思っていたが…。
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