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従業員達はこの地域の人達で、主にネット販売をしていたが、最近では出店してみないかとの話もかけられるようになってきた。
「とりあえず、会議だな。明日の昼に行うから、それまでに書類を準備しておけ」
「分かりました」
二人は真面目な表情になり、各々自分のデスクへ戻る。
陽一は緩む頬を撫でながら、ノートパソコンに向かう。
しかし耳の奥で、あの声が聞こえた。
『愛しているよ、陽一』
甘く柔らかな声は、未だに鮮明に自分の中で残っている。
震え出す体を抑え付け、陽一は仕事に集中しようとした。
しかしどうしても気が散り、休憩を取ることにした。
工場の現場は父の仕事、陽一は営業を担当していた。
営業と言っても時々駅やデパートで行われる物産展や、ネット販売での受け付け業務を行っていた。
最近ではこういう田舎の物産品が人気になっていて、工場の経営もなかなか良くなってきた。
町ぐるみで行っている為、売れ行きが伸びてきているのは嬉しいはずだ。
「なのに…何でお前の声が聞こえるんだよ」
陽一は軽く頭を振った。黒く真っ直ぐな髪が顔にかかる。
父親譲りの黒い髪と眼、そして母親譲りの童顔は未だに二十三歳と名乗っても、首を傾げられた。中肉中背が、余計に拍車をかけていると言っても良いだろう。
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