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工場の敷地内には、この地域で採れる花や果実をいくつか栽培しており、利皇は一つ一つを厳しい眼で観察していく。
「お茶と名が付くものは、別に紅茶に限らない。この地域で採れる材料から作れば、良い商品になると思うよ」
「オレも羽月にそう言ったんだが…やっぱり五年前のことが気になってるみたいでさ。オレはもう気にしないって言ってるのに」
「…ああ。まあ分からなくもないね。最期だと思って、最高のブレンドティーを作ったんだろう?」
「それは…そうだけど」
確かに五年前、飲まされた紅茶は美味しかった。今まで飲んできたどの紅茶よりも味わい深く、そして甘い匂いがした。
今でも時々体の中からよみがえるほど、強く自分の中に残っている。
「羽月くんにとっては、紅茶は罪そのもの。多分コーヒーよりもひどい症状が出る可能性もあるね」
「…かもな」
「まっ、もう少し様子を見たら? まだ再会して間もないんだろう? 心の整理がつかないんじゃないか?」
「うん…」
不安げな表情で返事をしてくる陽一を見て、利皇はため息をついた。
「実はコレ、まだ内緒の話なんだけどさ」
「ん? 何だ?」
利皇は周囲を伺い、人がいないことを知ると、陽一の耳元で小さく言った。
「近々、羽月くんの父親が引退するらしい」
「えっ!」
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