208人が本棚に入れています
本棚に追加
遠回しだが、励まそうとしてくれる利皇の気持ちが伝わったからだ。
「―ありがとな、利皇」
「んっ。羽月くんと別れたら、いつでも俺のところにおいで」
「その一言が余計なんだっ!」
利皇との会話があって数日後、陽一はテレビのニュースで知った。
羽月の父親が本当に引退し、その後継者に利皇がなったことを。
「ぶっー!」
早朝、モーニングコーヒーを飲んでいた陽一はテレビを見て思いっきりふき出した。
「げほげほっ。なっ何だってぇえ!」
テレビの中の羽月の父親は苦い顔をしており、対して利皇は満面の笑みを浮かべていた。
「アイツっ…隠してやがったな!」
不安になる陽一を見て、さぞ心の中で笑っていたに違いない。
陽一はあの時、礼を言ったことを激しく後悔した。
―その日の工場は休みの日だったが、陽一の家では電話が鳴り響き、訪問客も多かった。
理由は利皇のことだ。
数日前に会った人物が、まさかこんな大物だったなんて、陽一は知っていたのかと問い詰められていた。
だが知らなかったものは知らなかったと言うしかない。
とりあえずプロジェクトには影響ないだろうと言うと、ひとまず落ち着いた。
だが陽一が落ち着かなかったのは言うまでもないこと。
最初のコメントを投稿しよう!