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茜陽一の仕事
「愛しているよ、陽一」
泣きそうな笑顔で言われた言葉、でもその表情は霞んだ眼にはぼやけて見える。
「は…づき」
搾り出すように出た声は、はたして彼の耳に届いていたんだろうか?
少なくとも陽一の思いは届いていたと……信じたかった。
「はい、はい! ありがとうございます!」
笑顔で電話を切り、茜あかね陽一よういちは父であり、そして仕事上は上司である社長に駆け寄った。
「注文の追加を取れました! 前に購入してくれた商品を気に入ってくださったみたいで、今回は前回の倍の注文です」
「そうか、よくやった」
穏やかな笑みを浮かべ、茜陽介ようすけは息子の頭をいとおしげに撫でた。
「わわっ! とっ父さん、会社ではやめてくださいよ!」
「ああ、悪い悪い。お前も会社では父さんじゃなくて、社長と呼べ」
「…はいはい」
「『はい』は一回だ」
「はい」
父と息子の微笑ましいやりとりを、近くにいた従業員達は穏やかな表情で見ていた。
田舎の山奥にある工場が、茜父子の職場だった。この地域は花や果物が豊富に採れて、それを活かした商品を作り出していた。食品や化粧品など、女性をターゲットとした商品が人気だった。
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