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絶望の中の行為
「ずっと会いたかったんだ、陽一」
優しく慈愛に満ちた眼で見られても、陽一の震えは増すばかり。
「―ボクが、怖いの?」
羽月は急に顔を近付けた。
「ひっ!」
思わず顔を逸らした陽一を見て、羽月は冷たい光を眼に宿す。
「そう、怖いんだ。当然だよね」
口元に笑みを浮かべると、陽一を抱き締めた。ゆっくりと、しかし決して逃さぬように。
そして陽一の耳元で、甘く囁いた。
「だってボク、五年前のあの日、キミを殺したんだものね」
大きく見開いた陽一の頭の中で、五年前のあの日のことがよみがえった。
「ボク、陽一が好きなんだ」
告白されたのは、中学二年の時だった。
それまで友達としてしか見ていなかった羽月が、まさか同性の自分を好きだと言うなんて思わなかった。
でも次の瞬間、自分でも思ってもみなかった言葉が出た。
「…オレだって、羽月のことが好きだ」
言った瞬間、顔が一気に熱くなった。
けれど羽月は本当に嬉しそうに笑ってくれたから、それで良いと思った。
二人が出会ったのは小学五年の時。
陽一が住んでいた家の隣のアパートに、羽月と羽月の母親が引っ越してきたのだ。
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