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1:現場に向かう自分
「アパートの部屋から異臭がする」
通報を受けた警視庁通信指令センターから入電を受け、管轄の警視庁練馬警察署に所属していた自分は、当該住所に至急向かった。
自分の名は鈴川礼司。階級巡査、一介の交番勤務員。毎年昇任試験を受けているが、どんなに猛勉強しても不合格に終わり、今の階級に甘んじている。今年こそ合格して巡査長や巡査部長、夢の警部や警部補に上がってやろうと勉強している。
自分は競輪選手のように自転車を物凄いスピードで走らせた。だが現場に急行したいからではない。
風を受けて、わずかに涼しくなるからだ。
炎暑厳しい七月の東京。蒸し暑さは常軌を逸しており、太陽が日本人を殺そうとしている。
入り組んで狭苦しい練馬区の灼熱迷路を快走すると、現場である小さな二階建てアパートに辿り着く。一番乗りだった。
アパートの前に、第一通報者である住民の女性が一人立っていた。年齢は三〇代後半から四〇代くらい。オートロック無しワンルームアパートに女性が一人暮らししているのは無防備だが、おかげで家賃は相場より安い。
自分は女性から事情を聴く。一〇日前から異臭がしていたのだが、遂に我慢の限界を超えたので通報に至ったと言う。
異臭のする一〇六号室に住む住民の名前は黒羽翔。
聞き覚えのある名前だ。
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