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早速荷物をまとめるね。といってもボストンバック一つだけなの」
「まとめ終わったら昼食でも食べよう」
山下さんの提案に恵美子は躊躇してしまった。何故ならここのところ過食になってしまっている。柿崎の死体を見たあの日から食欲が異常になってしまったのだ。昨日は刺身や焼肉を鱈腹食べて、それでも足りずに唐揚げやウインナーまで食べた。食べている間は無心に近い状態で、食べ終わってから深い自己嫌悪に陥る。そんな姿を人に見られたくない。
「色々あったから食欲が湧かないの」
上手い言い訳をつけてやり過ごしたかったが
「それじゃあ、ますます貧血が酷くなってしまうよ」と山下さんに言われてしまった。
どうしよう。一緒に住めば、いずれ解ってしまうのだから山下さんだけには見られても仕方ないかもしれない。
「だったら家で食べましょう。何か買ってきて。ねっ」
「そうだな。恵美子ちゃんが良いのなら僕は構わないよ」
二人は近所のスーパーに向かった。食品売り場には美味しそうな物がいっぱいある。恵美子は眺めただけで食べたくてたまらなくなった。山下さんが
「美味しそうなパン屋があるよ。パンでも食べる?」と聞いてきた。
パンはあまり食べたくはない。だったらステーキとかハンバーグとか。
そうだ。
「ハンバーガーにしましょう。ハンバーガー屋さんがあるから、テイクアウトして帰りましょう」
「ハンバーガーでもいいよ。じゃあそうしよう」
二人は各々の好きな物を注文して帰り、それを食べた。恵美子はもっと食べたくてたまらなくなり、家にあったサラミを丸ごと一本食べてしまった。
「御免なさい。最近過食傾向にあるの」
恵美子は正直に白状した。
「そう。気にしなくていいよ。色々なストレスのせいかな」
「嫌いにならない?」
「当たり前じゃないか」
良かった。これで一緒に住んでも大丈夫そうだ。恵美子は胸を撫でおろした。
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