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そうこうしているうちに奏多の降りる駅が近づく。あと二駅。こうして黙っているのが惜しくなった奏良は、思い切って話しかけた。
「奏多は? 学校帰り? 私服校なの?」
平静を装ったつもりだが、声が上ずっていないだろうか? ドキドキを上手く隠せただろうか。
(うわ……。なんだこれ、はっずかしい!)
奏良は窓に写ったった自分の前髪を直すふりをする。
奏多はそれをちらっと見やり、伏し目で答えた。
「うん学校帰り。私服校なんだ。俺、部活やってるからいつもはもっと遅いけど……奏良は? 高校でも部活やってないの?」
「やってない。お前、今でもサッカー? 今日は休みだったの?」
「うん、サッカー。……今日休みじゃないけどお告げがあったんだよ。部活休んで帰れって」
「はは。マジかよ」
「マジマジ」
(なんだ。俺、普通に話せるじゃん。友達みたいに)
そう思いながらふと見ると、奏多はつり革を掴んでいない左手の親指と人差し指をこすり合わせている。
(奏多、緊張してる……。もしかしたら、俺に会えたからかな。なんて)
もうずっと長い間妄想していたせいだ。
ついついそんな自惚れたことを考えてしまった。
かといって決して本当にそうだとは欠片も思っていない。
奏多が奏良のことを気に入ってくれていたのはもうずっと前の小さい頃のこと。
今はこんな態度の悪いやつなんかと仲良くなりたいはずがない。ただ、デュオのパートナーとして相性がいいだけ。それが現実。
ほんのりと甘酸っぱい妄想は一瞬で苦味に変わってしまった。
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