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「そういえば、各駅に乗ってるのもお告げなの?」
奏多の下りるべき駅で扉が閉まる。電車は再び走り出した。
奏良はふと浮かんだ疑問を口にした。奏多が各駅電車に乗る必要はないはず。奏多の最寄り駅は急行の停車駅だ。
「そうそう。お告げ」
「マジで言ってんの? お告げってどんなふうにくるの?」
「あー……なんていうかぁ……お告げって言ったけど要は閃き? 始発で止まってたこの電車を見てピンときちゃったんだよね。これ! これに乗ろうって」
「え、お前、はじめからこの電車に乗ってたの?」
「そうそう。だから高野台で奏良が乗ってきたところ、見てたよ。――奏良だって……なんであそこから乗ってきたの?」
「高野台で降りる友達と帰ってたんだよ。……なんとなく次で乗り換えるのめんどくて車両変えただけ」
「……そっか。で、部活を休んだお告げはぁ」
「もう、いいよ」
「なんだよー」
馬鹿っぽい話しぶりとは打って変わって、さっきから奏多の緊張は加速している。Tシャツの裾を摘まんで引っ張ったり擦ったり手悪さが盛んだ。奏良が初めて誘いに答えたのにも関わらず何をまだ緊張しているのだろうか。やっぱり……と、思うたび頭を振る。今は普通に話すことだけに集中しなければならない。
「奏多、どこ行く? この先なんかあったっけ」
「……とりあえず……所沢で降りようか」
所沢では何する訳でもない。駅直結のカフェでぽつぽつ話しをしただけだった。小さい頃、この駅のホールで二度、発表会に出たっけ――。そんな思い出話や学校のことを二人で話した。
(楽しい……。ずっとこうしていたいな)
そんな素直な気持ちを認めると、泣きたい。
奏多のパッチリした目と目が合ってしまったら、つい『好きだよ』と言ってしまいそうだ。
顔をまともに見られない代わりに、奏良はテーブルに置かれた奏多の手を、指を、じっと見つめた。
気持を伝えたいと望んだことは一度もなかったはずなのに。
こうして二人でいる幸せはどうしたってぬぐえない。何も求めていなかった奏良の心境に変化が起こった。
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