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もうやめよう。奏多の降りる駅は次だ。ちょうどここで話が途切れたところで会話を終わらせるつもりで窓に顔を向けたときだ。
「じゃあさ、」
奏多が話し始めた。
「……これからヒマなの?」
胸のあたりがドキッと鳴った。それでも奏良はキャラを保ちつつ「まあ」と、短く答えた。
アナウンスが到着を知らせる。電車が減速する。奏多はもう、降りなければならない。
「このままどっか行かない?」
奏多が早口に言った。
奏多は言った傍からすでに悲しそうな顔をしている。窓の方に顔をそらせて、何でもないように今にも止まりそうな景色を眺めるふりをして。
胸の中がきゅうっと掴まれたように痛む。奏多は初めから断られると思っているのだ。いつも奏多にこんな顔をさせていたのかと思うと苦しい。
――奏多はずっと変わらずに俺と仲良くしようとしてくれてるんだ……。それなにの俺は……。
奏良は間髪入れずに「いいよ」と答えた。
「……えっ。――いいの? なんで?」
「ははっ。なんでって、俺が聞かれるの?」
「いや! いやいや!!」
慌てて手を振り、目を丸くしている奏多の顔があまりにかわいくて奏良の頬が自然に綻ぶ。
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