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まだ夏の陽気がじりじりと後ろ髪を引かれている、そんな秋の午後。
春海学園の高等部、その穏やかな昼下がりの庭園では多くの生徒たちが恋人や友人たちとの語らいの時間を過ごしていた。
青い空に鳥の声、金木犀の匂い。天は高く、風も時もゆるやかに流れていく。のどかなその光景は、突如として湧き起こったけたたましい悲鳴に打ち破られたのだった。
園庭を臨むカフェテリアのウッドデッキで読書に勤しんでいた俺は、はっとして読み物から顔を上げた。注意深く、目線の動きだけで辺りの様子をうかがう。
その時。
「シャシャシャーっ! 今からこの学園は我々ジャーク帝国が支配した! 人間どもよ、おとなしく我らが帝王・ジャミラさまの足元に平れ伏すがいい!!」
「イーイーっ!!」
広場の中央にある噴水の傍、アブラゼミによく似たフォルムデザインの怪人と、全身黒タイツの……えーと、えーと……そうっ、例えるなら某名探偵少年の漫画の容疑者みたいな、見るからに雑こ……じゃなくて、モブらしき集団の姿が!
「な、なんだこいつらはっ!?」
「誰かっ、誰か助けてーっ!」
シャシャシャっといまだに高らかな笑い声(おそらく笑い声)を上げ続けているセミ怪人を背後に、黒モブたちは逃げ惑う学生たちを無差別に襲い出している。
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