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マラソン大会のミーティングがあるからと言う光臣と別れ、廊下を独り歩いていた俺は、窓の外に見知った姿を見つける。あ、と声を上げると同時、身を翻して階段を駆け下りた。くるくると校舎内を走り、裏庭に出ると、ベンチで昼寝をしていたらしい人影に声を投げる。
「賢人!」
呼ばれた彼は、額から鼻先までを覆っていたアイマスクをめんどくさそうに緩慢な動きで外した。
きらきらときらめく木漏れ日の下、長めの黒い前髪がさらりと揺れる。その下の白い額、そこから流れるような鼻梁と頬。すいと細められた深い藍色の瞳はきりりと切れ長、強い光を秘めている。
「あきら。昼飯は、済んだのか」
「ああ。光臣と、屋上で食べてきた」
「は?」
何かおかしなことをしてしまったのだろうか、賢人の眼光が鋭くなる。ただでさえシャープな目つきの彼が、そうやって眼光をきつくすると、仲間とはいえ肝が冷える。
俺は冷や汗をかきながら、努めて明るいノリで問い返した。
「賢人は? もう食べたか?」
「……ああ」
「何食べたんだ?」
「何って。別に。ただのおにぎりを一人で食ってただけだけど」
――やっぱり、機嫌が悪そうだ。うーん、彼は時々、こういう風になっちゃうんだよなぁ。
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