七色のシャッタースピード。

15/16
前へ
/132ページ
次へ
「湊先輩?」 「…私、行きたいな」 「え?」 「今年の夏祭り…二日間とも!呉羽くんとまわりたいな」 「……………」 目を見開く。僅かな空白の時間。 「それは、二人で?」 湊先輩は控えめに頷いた。頷いて、また、睫毛の影をつくり、口端をキュッと結んだ。その、不安そうでいて切なそうな、けれどどこか期待しているようなピンク色の頬に、僕は赤面する。心なしか、絡めている指先をさっきまでよりも、ぎゅっと強く握られている気がした。 「………僕でいいんですか?」 「え?」 「僕で良ければ、商店街、案内します。一緒に行きましょう」 「え?え?いいの?」 「はい。…僕も」 湊先輩が首を傾げる。僕は、挙動不審になってからの湊先輩を思い出していた。きっと、勇気をだしてくれたのだ。僕もそれに、言葉で応えたいと思った。 「僕も、湊先輩と一緒にお祭りまわりたいです」 すると、湊先輩は瞳と口を開けて。段々とその瞳が揺らいでいって。コクコクと頷いた。 「有り難う、呉羽くん!楽しみにしてる!」 「僕も楽しみにしてます」 「ねぇねぇ、呉羽くん」 湊先輩はわかりやすい。家路に向かう一歩を、再び踏み出した時「ルン♪」と、いう擬音が聞こえた。 「なんですか?」 「これって、その……デートよね?」 まったく困った人だ。ストレート過ぎる単語選び。まだ僕の心の準備が追いついていないのに。それでも、その内心の焦りを隠したいだなんて…ちょっとでもカッコつけたいだなんて…文芸同好会に入ってから、僕の世界は“初めて尽くし”で、いっぱいになってしまっているようだ。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加