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「湊先輩?」
「…私、行きたいな」
「え?」
「今年の夏祭り…二日間とも!呉羽くんとまわりたいな」
「……………」
目を見開く。僅かな空白の時間。
「それは、二人で?」
湊先輩は控えめに頷いた。頷いて、また、睫毛の影をつくり、口端をキュッと結んだ。その、不安そうでいて切なそうな、けれどどこか期待しているようなピンク色の頬に、僕は赤面する。心なしか、絡めている指先をさっきまでよりも、ぎゅっと強く握られている気がした。
「………僕でいいんですか?」
「え?」
「僕で良ければ、商店街、案内します。一緒に行きましょう」
「え?え?いいの?」
「はい。…僕も」
湊先輩が首を傾げる。僕は、挙動不審になってからの湊先輩を思い出していた。きっと、勇気をだしてくれたのだ。僕もそれに、言葉で応えたいと思った。
「僕も、湊先輩と一緒にお祭りまわりたいです」
すると、湊先輩は瞳と口を開けて。段々とその瞳が揺らいでいって。コクコクと頷いた。
「有り難う、呉羽くん!楽しみにしてる!」
「僕も楽しみにしてます」
「ねぇねぇ、呉羽くん」
湊先輩はわかりやすい。家路に向かう一歩を、再び踏み出した時「ルン♪」と、いう擬音が聞こえた。
「なんですか?」
「これって、その……デートよね?」
まったく困った人だ。ストレート過ぎる単語選び。まだ僕の心の準備が追いついていないのに。それでも、その内心の焦りを隠したいだなんて…ちょっとでもカッコつけたいだなんて…文芸同好会に入ってから、僕の世界は“初めて尽くし”で、いっぱいになってしまっているようだ。
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