11人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですね。デートですね」
「あのね!私ね、うさ丸堂は絶対に行きたいの!」
「わかりました。一番に行きましょう」
「それからね、それからね…」
湊先輩の言葉が、カランコロンと歌う。スキップでもしてるんじゃないかと、つい足元を見てしまった軽やかな歩み。僕はただ、嬉しかった。繋いでいる二人の指の熱も、彼女の紅潮した頬も、弾むように揺れる黒髪も、星のような笑顔も、湊先輩の全部で「嬉しい」と、伝えてくれているようで。その全てが、僕は嬉し(いとし)かった。同時に、一歩、また一歩を踏み出す度に、その想いが溢れて彼女を抱きしめてしまうんじゃないかと感じられて、怖くもなった。
けれど、彼女と歩くその一歩。目の前の空は、とても綺麗な蒼色だった。揺れる木々の緑色に、射し込む金色の太陽の光。公園の赤色のブランコ。黄色のすべり台。西井先生の溜め息は灰色で、たゆたう雲は白色。湊先輩と作った七色。そして、なによりも、誰よりも、可愛いと思う。彼女の、雪色にも桃色にも林檎色にも染まる頬っぺた。
世界はこんなにも、色づいている。
「呉羽くん!?どうしたの!?」
「…あ、すみません。睫毛がはいったみたいで」
「え!大丈夫!?鏡、貸そうか?」
「大丈夫ですよ、有り難う御座います」
今の僕にならわかる。この小さな一滴の涙にも、色はあるのだと。それに気づかせてくれたのは、誰でもない。
貴女だ__
そうして、僕は湊先輩を送り届けると、「あがっていって!」の、我が儘を振り切って、彼女をなだめて踵を返した。
「お家に着いたら連絡してね!約束よ!」
その言葉に頷いて。
そして、僕がまだ暑さの和らがないアスファルトの上を進んでいる時、湊先輩はやっぱり、僕の背中を見つめていたそうだ。
彼女が、どんな気持ちでいるのかも知らないで。今年のお祭りは、ただただ楽しい日になると__
僕は信じていた。
最初のコメントを投稿しよう!