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「よっ!」
「………時間のロスにならないなら、って、言ったはずなんだけど」
「だって呉羽、夏休みに入ってから夜は弾いてないじゃん?」
「宿題してるから」
「やっぱりな!お隣りさんなめんなよ!」
カリカリカリ…お互い算数、国語、理科、社会。多量のドリルと奮闘する。刹那、僕は手を止めずにポツリと呟いた。
「今日」
「ん?」
「花火、行かなくていいの?」
「小三までは親に連れて行ってもらってたけど、今は特に興味ない」
「そっか」
「姉貴は友達たちと行ってるけどな。わざわざ浴衣着ちゃって」
「だって姉さんは年頃じゃない」
「友達って言ってるけど、絶対に彼氏だよな」
「そこまではわからないけど」
「…俺はさ」
「うん」
「花火より、呉羽とこうして話してるほうが楽しいよ」
カリカリカリ…僕の手が止まる。顔をあげると、橘は「ニッ」と、あどけなく笑っていた。
「…橘ってさ、僕のこと好きだよね」
「バレてた!?」
「バレバレだよ」
「だってさ、せっかく家が隣りで、同い年で、学校も同じなのに呉羽つれねーんだもん。寂しいじゃん?」
「ははっ、男子に言われても響かないよ」
「なんだよー!」
それから、橘は夏休み中、毎日同じ時間に宿題をしに来た。とは言え、僕のほうが先に宿題を終わらせてしまったのだが。それでも、毎日うちに来て僕がピアノを弾いている横でシャープペンシルを走らせていた。
それからだ。僕は変わらず、学校でサッカーやドッヂボール、バスケットボールをして遊ぶことはなかったけれど。休み時間になると、橘が僕の席へやってきて話をするようになった。
そうして、冬休みを迎え、春休みを迎えて、また夏休みはやってくる。いつの間にか、なんとなく一緒にいるのが当たり前になって、僕らはまた祭りに出かけるのだ。中学生になっても二人で。その日の夕飯は、商店街の出しものと決まっていた。
しかし__
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