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「いいよ。今度お茶奢って」
「自販機の?」
「そう」
「呉羽、緑茶好きなー」
「普通だよ」
「でも高校入学してから、呉羽が緑茶以外飲んでるの、見たことないぜ?」
「そうだったかな?」
談笑しながら、軽快な足取りで教室へ戻る。橘はパンを、僕はお弁当箱を広げて、途中、橘が思い出したように四月一日先輩の名前をだした。流れていく会話の合間に彼女の笑顔が過って、チカッ。いつもと変わらない、いつもの教室を眩しく感じて、僕は瞼を閉じた。
それからの午後の時間はあっという間に過ぎた。午前中同様、授業の内容が頭に入っているのか定かではない。名前順で分けられている為、橘と僕は掃除当番の班も同じで、教室を磨き上げた後の“ゴミ捨てジャンケン”。僕はこう言った運にとことん見放されている。橘は勿論、バスケ部の部室へ。他の生徒も各々部活へ向かっていった。僕はゴミ箱を片手に、廊下の人波を避けながら、ゆったりとした足取りで進んでいく。途中、開け放たれた窓から風が入り込んできているのに気がついた。それにつられるように、何気なく外を見る。太陽は高く、真っ青な蒼穹に、緑の木々が揺れて、つい足が止まった。風が、僕の前髪を乱していく。
(………)
*
「なら早速、今日、古書室に連れて行ってやる」
*
そして、西井先生の誘いをぼんやりと思い出して、僕はのん気に、こんなことを思うのだ…
(うちに、古書室なんてあったんだ)
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