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眼鏡越しに見る陽の光が眩しい。僕は窓を閉めると、ゴミ捨て場へ向かう為にまた一歩、足を踏み出した。俯きがちな視線。ざわざわざわ…生徒たちの話し声が聞こえる。と、思ったら、まるで背中から水の底へ落下するような感覚に陥った。ぼこぼこぼこ…空気と音を失って、僕の世界から色が失くなっていく。そして、手足をじたばたと動かすこともせず、ただ、落ちていくのだ。唯一、水面に揺れる太陽の明かりが瞳に映る。その光をつかもうとするように右腕を伸ばして__
モノクローム・トーン。それが、僕の世界。
任された役目を終えると、僕は教室へ戻りスクールバッグを肩にかけた。そして、言われた通りそのまま職員室へ向かう。
トントンッ
「失礼します。一年一組の五月七日です」
ノックして扉を開けると、その人は「待ってました!」と、言わんばかりの表情を見せて駆け寄ってきた。
「五月七日!遅いから下校したかと思ったぞ」
「ゴミ捨てジャンケンに負けました」
苦笑いで答える僕に、「なるほど」そんな拍子抜けしたような面持ちになったかと思えば、西井先生はニカッと白い歯を見せて、張り切って僕の背中を押して踏み出す。
「よし!じゃあ行くぞ!」
「………」
「古書室はな、B棟の三階の端にあるんだ。俺たち国語科の教員以外、ほぼ使うことはないな。あとは、図書室に置ききれなくなった古い本が、古書室に運ばれるんだ」
「…先生、なんだか嬉しそうですね」
「当たり前だろ!完全帰宅部宣言してた五月七日が、漸く部活を決めたんだぞ!?」
「まだ入部するって言ってません。あと、“完全帰宅部宣言”って、ネーミング。やめてもらえませんか?」
「なんでだ?」
「恥ずかしいからです」
「だってお前、その通りだろ?」
「そうかもしれませんけど、別に宣言したわけじゃないし、なによりネーミングセンスが…」
口ごもる。完全に西井先生の直球に、ハイテンションに負けてしまった。そうして、なんだかんだと会話は止まらずに。古書室の扉の前までやって来た。
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