11人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
「四月一日!喜べ!新入部員だ!!」
ノックも無しに、室内に誰が居るのか、居ないのかもわからないのに。西井先生は大きな声と共に、ばーん!と、扉を開けた。僕は隠れる。先生の背中に。しかしそこから少し…ほんの少しだけ顔を覗かせると、埃っぽいその場所で、椅子に座り、机に紙を散らばらせている女子生徒が一人。彼女も西井先生の大袈裟な振る舞いに驚いた様子で、大きな瞳を更に大きくしている。数秒の空白を破ったのは、天使の輪っかをつけた彼女だった。
「西井先生…こんにちは」
しかし、やはり頭は現状についていけていないようで、細い声が宙を浮く。そんな彼女の黒目がちらりと動いて、西井先生の陰から様子を伺っている僕にぴたり。と、視線が止まった。そして、ガタンッ!と、音を立てて彼女は立ち上がる。
「五月七日くん!?」
「お?なんだ?お前たちもう知り合いなのか?」
西井先生の顔が、後ろに隠れている僕のほうを向く。そして、
「なんだなんだ五月七日。どうした」
西井先生の手によってズイッと。僕は四月一日先輩と対面になった。
「こんにちは、五月七日くん。どうしたの?」
四月一日先輩は微笑う。小首を傾げて。弾むように、けれど柔らかな声…この埃っぽい部屋で、彼女の周りだけが、彩られていく。
「四月一日、聞いてなかったのか?新入部員だ!文芸同好会の!」
西井先生のその言葉に、四月一日先輩はあんぐり。その表情につられて、僕まで口が開いた。しかし、どれほどの間を待っただろう。手持ちぶさたになって頬を掻くと、ガタンッ!先よりも雑な音を鳴らして四月一日先輩の座っていた椅子が床に落ちた。
タンッタンッタンッ__
一歩、一歩近づいてくるその足音は、まるでピアノの鍵盤が響くよう。四月一日先輩の笑顔が、“嬉しい”が、僕の目の前までやって来た。そして、両手で左側の手を包まれる。真っ白な四月一日先輩の手は、とても暖かかった。
「ようこそ!文芸同好会へ!」
最初のコメントを投稿しよう!