カラフルへようこそ。

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四月一日先輩が、女の子が泣いている目の前の事態にあたふたしている僕に、西井先生は言う。 「幾ら部活動必須の学校だからって、部員が一人じゃ、一学期で廃部になるんだ」 「え?」 「お前は今、一つの同好会と、一人の女子生徒の夢を守ったんだよ」 (…夢?) ニカッと親指を立てて笑う西井先生と、線が抜けたように泣きじゃくる四月一日先輩。僕は入部届けを受け取ると、その場でクラスと名前を書き、西井先生から承諾の印鑑を貰った。そして… 「四月一日先輩?大丈夫ですか?」 僕は、ポケットからハンカチを取り出して、いまだ泣き止まずの四月一日先輩に差し出す。しかし、四月一日先輩はそれを受け取らずに。また、暖かい両手で、ハンカチを持っている僕の手を包み込んだ。 瞬間、ザッ!と。まるで、風の吹く花吹雪の真ん中にいるような景色を見た。揺れる、四月一日先輩の長い黒髪と、流されて消えていく大粒の涙。靡く僕の制服のネクタイ。崩れていく、僕の世界。 モノクローム・トーン__ 二人の足元から、鮮やかな色が光り纏ってきて、彩られていく。辺りは一面の花の木々。僕の空っぽの心に、ぽちゃんっ!と、一滴、透明な水が落ちてきて余韻を広げる。そして、四月一日先輩は微笑みながら今一度、言うのだ。 「ようこそ!文芸同好会へ!」
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