橙色に招かれて。

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……躊躇う。古書室の扉の前で、僕は静止していた。この扉を自分の手で開けてしまえば、もう後戻りはできない。今更、そんな大袈裟な思いが過っていた。しかしそれは、本当に“今更”なもので…。 涙を流しながら後輩に頭を下げた四月一日先輩。傍若無人に一年生の教室へずかずかと入ってきた先輩。嬉しそうに口約束の指切りげんまんをした先輩。僕の名前を呼んで「またね」と、手を振った先輩。一つ一つ、浮かんで消えていく。くるくる踊る、彼女の表情。 僕は、長く息を吸う。そして、静かに脈打つ鼓動を感じて意を決すると、ついにそのドアノブを回した。…ら、 「呉羽くん!」 「五月七日!」 「「文芸同好会へようこそ~!!」」 パンッパンッパンッ!と、勢いのある音、カラフルでキラキラとしたテープに包まれた。これはアレだ。百円ショップで見かけるハッピークラッカーと言うものだろう。先ず、僕の頭を通過した思いは「何故!?」と、言うことだ。自身で使ったこともなければ、使用されたこともないが。音だけクラッカー、メタルシャワーと言った散らからないタイプの…所謂、便利な品々が揃えられているこのご時世で、なぜ彼らは散らかるタイプの物を選んだのか。あまりの大きな音にフリーズしたが、床を見ればピンク、赤、青、緑、黄色の小さなテープが散乱しており。更に視線を動かすと、僕のカーディガンにその鮮やかで細々とした物が付着していた。 この二人に、我が身を任せてしまったことを早くも後悔した。大体、ハッピークラッカーは人に向けて発射してはいけないのだ。そんなことも知らないのか?…なんて、心の中でぶつぶつと文句を呟いては、僕の頬を火照らせる照れを隠そうとした。伏せる睫毛。カーディガンを彩る、五色のキラキラ。 (………) 暖かい__
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