ある夏の日の魔法

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B「寒くないの」 夢中で写真を撮っていたら、不意に声をかけられた。顔をあげると、濃いブルーのジャンパーを羽織って、白いマフラーを巻き、真っ黒な傘をさした青年が私の横に立っていた。髪は薄い茶色で、肌は雪と同じくらい白かった。 A「寒いかも」 夢中で写真を撮っていたから気づかなかったが、頭の上やカメラにうっすら雪が積もっていた。 B「カメラ好きなんだね」 見知らぬ青年はそう言って微笑むとさしていた傘を、半分私に傾けてくれた。 A「写真って、撮った人の世界の見方が見えるっていうか、上手く言えないけどそういうところが好きなんだよね」 B「そういうのいいね」 A「ふふ、ありがと。今日初めて会った人に褒められるのなんだか照れる」 うつむいてカメラの雪を払う。自分の価値観を肯定してもらえるのは思ったより恥ずかしくて、そして嬉しい。 B「夏に雪が降るなんて驚いた?」 A「もちろん。奇跡だよね、こんなこと。未だに信じられない」 B「でも、こんな日もあっていいと思わない?」 A「とってもわくわくする。そうだ!素敵な日にあなたに会えた記念に、写真撮ってあげる」 隣にいる彼にカメラを向けると、パッと顔を明るくした。 B「ほんと?ありがと!じゃあ、めちゃくちゃかっこよく撮って!」 A「なにそれ。あまり人のこと撮ったことないから緊張する」 カメラを構えて、息を止める。雪がひらひらと舞って、青年の髪や肩を白く彩る。一番美しいと思ったその瞬間を逃さないで、シャッターを切った。
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