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「懐かしいな。この写真」  ついに一軒家を購入し、現在住んでいるアパートから引っ越すために荷物をまとめていると、本棚の隙間からぽろりと一枚の写真がこぼれ落ちてきた。  まだ高校生だった彼女は、短い黒髪で頭の良さそうな丸い眼鏡をかけており、木の梢や彼女の頭に降り積もる雪を見ると、あの冬の記憶がよみがえる。 「ぼうっとしてないで、早くその本片付けてよ。古本屋に売るやつと分けといてね」  クローゼットの洋服を整理していた菜々子は、むすっと眉根を寄せて俺をたしなめた。現在では丸眼鏡をコンタクトにして、肩甲骨あたりまで伸びたこげ茶の髪を後ろで一つに束ねている。  俺は苦笑して、手に持っていた写真を菜々子に見せた。 「ほら、見てみろよ。これ」 「あ、それ初めてデートしたとき、たっちゃんが盗撮したやつでしょ。懐かしいな」  菜々子は驚いて大きく目を見開き、じっくり写真を眺めた。俺は唇を尖らせて反論する。 「盗撮って言い方はないだろ」 「だって、本当じゃない」     
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