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◆◇◆◇
天高く馬肥ゆる秋。
秋はいい。秋は一年の中で一番好きだ。
過度な暑さも寒さもなく、美味いものも多い。
やや肌寒いものの、何か一枚引っ掛けるなり日向にいれば、それなりに過ごせるのが非常に楽で、結構なことだ。
日向と云えば、息子は秋になると屋根の上で過ごしたがる。
なんでも、瓦が太陽の熱で温まり、気持ちがいいんだとか。
(わかる、その気持ち)
私も息子くらいの年の頃は、よく屋根に登って日向ぼっこをしていた。どうやら血は争えないらしい。
きっと今も、息子は屋根の上にいるのかも。
庭の柿の木に成った実の数をチェックした後、おもむろに屋根を見上げると、やはり彼はそこにいた。
屋根の上に座り、秋の陽射しを一身に浴びながら読書のご様子。
偶に持参した水筒の中身を呷る様は、まさに自由気ままで、なんとはなしに羨ましく感じる。
(いいな。実にいい。私も真似しよう)
うまいパンと淹れたてのコーヒー、それから本を屋根に持って上がって、存分に寛ぎたい。
明日は、つれあいが娘を連れて実家に出掛けるそうだから、朝から夕方くらいまでは屋根の上でゆっくりできる筈だ。
そうと決まれば、早速準備をしなければ。
「父さん、どこか行くの?」
いそいそと出掛けようとする私を目敏く見つけた息子は、屋根の上から声を掛けてくる。
「パン屋と文緒の所に行ってくる。何かいるか?」
「パン屋って、〈タヌキツネのパンやさん〉? じゃあ、里一……お店にいる男の子に、明日の昼食とおやつになりそうなものを見繕って貰うかな。僕の分はそれでお願い。あと、先生にも宜しく伝えておいて。いってらっしゃい」
「いってくる」
いいだけ言ってから、ヒラヒラと屋根の上から手を振る息子に見送られ、私は家を出たのだった。
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