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 天高く馬肥ゆる秋。  秋はいい。秋は一年の中で一番好きだ。  過度な暑さも寒さもなく、美味いものも多い。  やや肌寒いものの、何か一枚引っ掛けるなり日向にいれば、それなりに過ごせるのが非常に楽で、結構なことだ。  日向と云えば、息子は秋になると屋根の上で過ごしたがる。  なんでも、瓦が太陽の熱で温まり、気持ちがいいんだとか。 (わかる、その気持ち)  私も息子くらいの年の頃は、よく屋根に登って日向ぼっこをしていた。どうやら血は争えないらしい。  きっと今も、息子は屋根の上にいるのかも。  庭の柿の木に成った実の数をチェックした後、おもむろに屋根を見上げると、やはり彼はそこにいた。  屋根の上に座り、秋の陽射しを一身に浴びながら読書のご様子。  偶に持参した水筒の中身を呷る様は、まさに自由気ままで、なんとはなしに羨ましく感じる。 (いいな。実にいい。私も真似しよう)  うまいパンと淹れたてのコーヒー、それから本を屋根に持って上がって、存分に寛ぎたい。  明日は、つれあいが娘を連れて実家に出掛けるそうだから、朝から夕方くらいまでは屋根の上でゆっくりできる筈だ。  そうと決まれば、早速準備をしなければ。 「父さん、どこか行くの?」  いそいそと出掛けようとする私を目敏く見つけた息子は、屋根の上から声を掛けてくる。 「パン屋と文緒の所に行ってくる。何かいるか?」 「パン屋って、〈タヌキツネのパンやさん〉? じゃあ、里一……お店にいる男の子に、明日の昼食とおやつになりそうなものを見繕って貰うかな。僕の分はそれでお願い。あと、先生にも宜しく伝えておいて。いってらっしゃい」 「いってくる」  いいだけ言ってから、ヒラヒラと屋根の上から手を振る息子に見送られ、私は家を出たのだった。
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