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家に帰るとカレーの匂いが真っ先に出迎えてくれた。少し暖房が効いた空気が家の中の家庭そのものを明るくしてくれている。
「ただいま」
「おかえり。遅かったわね。寄り道でもしてたの?」
緊張しすぎて歩くのが遅くなっただけとも知らずに母は笑いながら僕に質問するが、いまはその笑顔が心に刺さる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、その…」
口ごもる僕に母は首を傾げ、ニコッと「今日はカレーよ」となかったことにしてくれた。
やはり、母の作るカレーは美味しい。一度自分で作ってみたことがあるが、母のようにうまくは作れなかった。今度作り方聞いてみようかな。
って違う違う。冒険に出ることを打ち明けなきゃ。でも完全にタイミングを失ってしまった。話す内容は決めているんだけど、切り出し方が難しい。説得方法は帰り道に必死に考えて見たものの、切り出し方までは考えていなかった。
「どうしたの?顔色悪くない?あっ、もしかして今日のカレー不味かったとか?」
「ううん。美味しいよ」
ああ、どうしても単調な返事になってしまう。いつもなら母と二人で話し合って盛り上がったりするのに今日は空気が張り詰めているのが目に見えてわかる。母はこれから息子が『楽園』を出るなんて言ったらどのような反応をするのだろう。怖い。でも、僕は。
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