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「『楽園』を出たら事実上もう二度とここには戻ってこれないからよ。『楽園』を出て言った人たちに対してすごく厳しいの光一も知っていると思うけど。私は息子がやりたいようにすればいいと思うけど、周りはそれを許さない。一度出て行った者がのこのこ『楽園』に帰ってこれると思ったら大間違いよ。一度でも出ていったら私たちとあなたは一生離れ離れになるでしょうね。」
母は今にも泣きそうな声で言った。
母の気持ちは痛いほどよくわかる。僕だってこの家を離れたくない。だけど、僕は小さい頃から冒険をしてみたかったんだ。この気持ちは母もわかってくれているだろう。
「僕は『楽園』から出て世の中を、本当の世の中を見てみたいんだ」
この世の中にはたった二種類の人間しかいない。朝、自力で起きられる人間と起きられない人間だ。幼少期は後者だったが、最近は目覚まし時計をセットしなくても起きられるようになり、自分で自分に拍手を送りたいくらい感動している。
僕の寝室は二階なので一階のリビングに行くには当然階段を降りなければならないのだが、家の階段はおしゃれにも螺旋型となっており寝起きが悪い僕にとってこの階段は危険エリアである。
螺旋階段の隙間から見えるリビングは朝ごはんの匂いが漂っていて父と母との三人で和気藹々と笑顔が絶えない空気が流れている。そう、いつもなら。
螺旋階段から感じる空気は冷たかった。いつもなら目玉焼きや味噌汁がの匂いがするはずなのに。今日の朝食はパンだけだった。
「『楽園』を出るらしいな」
いつもは陽気な父が険しい顔をしているのは生まれて初めて見る気がする。
「うん」
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