あなたがいた

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あした世界なんて滅んじゃえば良いとおもうけれど、あなたが愛し愛される世界なら、私も愛してみようかなとおもいました。  八時五分着の東急東横線。駅から学校までは徒歩十五分。朝礼の五分前に教室入り。なかなか良いタイミングです。  朝のやわらかな陽がさす駅には、女学生が、あちらにもこちらにも、友達を待って立っていました。私に言わせると、待ち合わせをしているようでは「まだまだ」です。私と彼女ほどの仲になると、わざわざ時間と場所を指定しなくても、自然と、一緒になっているのです。  今日も、パンを焼く薫りのする通学路をゆっくり歩いていると、最初の横断歩道の手前で、彼女の「おはよう!」という声が聞こえてきました。  彼女は、ふわふわしたショートカットをゆらして、にっこり笑っていました。色白の頬は寒さで桃色に染まっています。真冬の制服姿はとても寒いのです。セーラー服のなかにヒートテックの下着を着込むとしても、限度があります。でも、野暮ったい学校指定のコートを着るくらいなら、寒さに耐える方がマシ。これは女学生の意地なんです。だから彼女は、水色のマフラーをぐるぐる巻いて、カーディガンの袖の中に手を隠して、学校指定の黒ハイソックスをソックタッチで最大限のばして留めて、なんとか暖をとっていました。 「昨日ね、パーマかけたんだよ」  彼女は大ニュースといった風に言いました。 「だから、まだ、パーマ液の香りが残ってるかも」  パーマ液の香りというのは、私が以前になにかの詩で読んだものです。「あなたのかけたてのパーマネントの香り」という言葉に秘められた純情な恋心に惹かれ、私は彼女に「パーマの香りってどんなもの?」と尋ねたことがあったのです。それを覚えていてくれたことに感激して、胸の中にサァーッとあたたかいものが広がりました。 彼女の髪に顔を埋めると、あの独特な匂いがしました。ちょっと息苦しいんだけど、いつまでもこうしていたくて、ぎゅっと目をつぶりました。
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