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第3話 騒動
この商会の主、アリーシャさんの好意によりしばらくお世話になる事に決まった。
本当なら今すぐにでもヘトキアへ向かいたいところだが、お金が無くては情報を集める事も困難になる、
旅の資金を稼ぐため明日は商会の仕事を手伝う事になった。
四人で食後のお茶を飲みながら今後の事やヘトキアへ到着した後の方針などを話している最中、
「あっ!そう言えば荷解きをしなきゃいけないんだった!」
オルクが席を立ち残りのお茶を飲み干す。
「それじゃ明後日よろしくな!」
私に手を上げそれだけ言うとそそくさと仕事に戻って行った。
「慌ただしい男だねぇ。」
オルクの後ろ姿を見送り呆れたようにアリーシャが呟く。
「仕事と言えば…アリーシャさん、書類の整理ってまだ残っているんですよね?」
「それは昨日リタが手伝ってくれたからだいぶ捗ってさっき全部終わらせたよ。」
「それじゃ今日はもう商会のお仕事無いですよね?お菓子持ってきます!」
言うが早いかリタは食堂の棚へ飛んで行き、お気に入りだと言う菓子の入った大きな木の器を大事そうに抱えてきた。
淹れ直してくれたお茶を飲みリタおすすめの焼き菓子をいただきつつ、私の旅の支度や身の回りの物を揃えるのはどこの店がいいかを話し合う。
何を買うにしてもモンテの街の勝手が分からず案内が必要になるためリタが買い出しに同行してくれる事になった。
「リタに任せておけば大丈夫だよ、この子はこう見えて頼りになるからね。」
「こう見えては余計ですよぅ。」
菓子を頬張りながらリタが拗ねている。
こんな幼い子に任せて大丈夫なのか…少し不安に感じるけど商会の主であるアリーシャさんが太鼓判を押してくれるのなら問題無いのかな?
取りあえず今後の方針がほぼ固まり一安心していると…
…何だろう…?…外が騒がしい。
「それで、携帯食を買うのならカリム商店がいいって、あそこなら品質も悪くない、信用出来るよ。
下手な所で買うと不味い上に処理が甘くて腐ったりするからね、旅の途中で腹を下すのは嫌だろ?店選びは大切さ………?なんだい?何の騒ぎだい?」
しばらく遅れ騒ぎに気付いたアリーシャが怪訝な顔で席を立ち商会の外へと続くドアへ向かう、
ドアが開け放たれると一層大きく騒ぎが聞こえ人の往来も見える、どうやらこの商会は人通りの多い道に面しているようだ。
アリーシャは眉をひそめ通りを覗うと知り合いと思われる同年代の女性を捕まえ何やら話し込んでいる。
話しの内容は…
ドアの方に意識を集中させているとリタが話しかけてきた。
「これ王都でしか手に入らないんですけど、すごく美味しいんですよー!王都に行く商隊の人にいつも買ってきてくれるように頼んでるんです!」
アヒルの形をしたお気に入りの焼き菓子を口に運びながら説明してくれる。
そう言えばどこからかまた新たにアヒル菓子を出してきて器に盛っていたようだけど…どれだけストックがあるのか?
まさか、給料のほとんどを注ぎ込んでいるとか…?
「サキさん!後で一緒に服を見に行きましょう!サキさんは背が高いしスタイルいいから似合う服いっぱいありますよ!」
いい服屋知っているので!と意気込んでいるが…
それよりもアヒル菓子を口に運ぶ速度に目を奪われていた。
その小さな体のどこに入るのか、木の器に大量に盛られていた菓子のほとんどをその胃袋に収め茶を一気に飲み干す。
「美味しかったー、またお菓子買ってきてもらわないと…」
空になった器に名残惜しそうな視線を落としていたリタは顔を上げると目を爛爛と輝かせる。
「サキさん!ちょっとお話ししませんか?」
身を乗り出したリタはこちらの返事も待たずに事情聴取かと思われる程の質問攻めを始めた。
「サキさん年は幾つなんですか?えーっ!十六!?私と二つしか違わないじゃないですか!凄く大人っぽいですよねーもっと年上かと思ってました!私なんか背が全然伸びなくて幼児体型なんで羨ましいです!この間お客さんに幾つに見えるか聞いてみたんですよ、そうしたらなんて答えたと思います?十二歳って言われたんですよ!十二!!ありえないですよね!いくら何でもそれは酷すぎですよ!ところでサキさんは結婚しているんですか?まだですか、婚約者は…?いないんですか、彼氏はいるんですか?いないんですか?えーそんなに可愛いのにー結婚適齢期なのに勿体ないですーもしかして結婚より恋愛を楽しみたいタイプですね?それじゃどういう男の人が好みですか?特に好みは無いんですか?あっ!それってもしかしてあれですか?運命的なモノを信じちゃう感じですか?むふふー」
十六歳ってこの国では結婚適齢期なのか…?
疑問を覚えつつもお喋りの途切れないリタを観察する。
『……十四だったのか…背が低いから十二歳位かと思ってた…』
先日十四歳になったと言うこの少女は年の近い友達がいないそうで、この手の話しに飢えているらしい。
「商会の皆さんにはとてもお世話になっていますしいい人ばかりです、もちろんアリーシャさんも。
でも、それとはまた違うじゃないですか?ねぇ?」
テーブルの上に更に身を乗り出し鼻息が荒い。
その様子に若干気圧されていると、
知人との話しが終わったのかドアを閉め険しい表情で食堂に戻ってくるアリーシャの姿が見えた。
「何かあったんですか?」
リタの問い掛けに気付き顔を上げるアリーシャ。
「ああ…北門に“鼠“が現れたらしい。」
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