彼女の絵

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 彼女はいつも絵を描いていた。小さい頃から、気がつくといつも絵を。息をするように、自然に彼女は筆を持つ。  だけど、彼女の絵はいつも暗かった。色合いもそうだし、題材もそう。  死んだ魚。背中に矢の刺さったおじいさん。燃え盛る炎の中で泣き叫んでいる子供。  いつも誰かが死んでいたり、苦しんでいたりした。  私は訊いてみたことがある。 「何故、そんな暗い絵ばかり描くの」  彼女は、こう答えた。 「嘘の絵は描けないもの」  つまり、その絵は彼女にとって真実なのだ。彼女の目に、世界は暗く映っているのだ。  確かに、彼女はいつも苦しんでいるようだった。眉間にしわを寄せ、何か苦いものを噛み潰しているような表情で、下を向きながら歩いた。苦しそうな彼女を、私はいつも隣で見ていた。  私には、どうすることもできなかった。  女である私には、無理だ。だけど、誰かが彼女を救い出してあげられればいいのに、と願っていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加