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彼女はいつも絵を描いていた。小さい頃から、気がつくといつも絵を。息をするように、自然に彼女は筆を持つ。
だけど、彼女の絵はいつも暗かった。色合いもそうだし、題材もそう。
死んだ魚。背中に矢の刺さったおじいさん。燃え盛る炎の中で泣き叫んでいる子供。
いつも誰かが死んでいたり、苦しんでいたりした。
私は訊いてみたことがある。
「何故、そんな暗い絵ばかり描くの」
彼女は、こう答えた。
「嘘の絵は描けないもの」
つまり、その絵は彼女にとって真実なのだ。彼女の目に、世界は暗く映っているのだ。
確かに、彼女はいつも苦しんでいるようだった。眉間にしわを寄せ、何か苦いものを噛み潰しているような表情で、下を向きながら歩いた。苦しそうな彼女を、私はいつも隣で見ていた。
私には、どうすることもできなかった。
女である私には、無理だ。だけど、誰かが彼女を救い出してあげられればいいのに、と願っていた。
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