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やがて、彼女は、有名な画家になった。きっと彼のおかげだろう。
定期的に展覧会が開かれる。
今の彼女の絵は、明るくて、優しい絵だ。
子供を抱いて、微笑むお母さん。花の蜜を吸う蝶。仲睦まじい夫婦。
つまり、それが彼女にとっての、今の世界。
でも、何枚かに一枚、影のある絵が現れる。どこか寂しく、どこか苦しい、叫びのような絵。
きっと昔の彼女が顔を出しているのだ。その頃の彼女を知っているのは、私だけ。少し優越感に浸ることができる。
彼女とは、ごくたまにしか連絡を取らない。けれど、毎回、私は彼女の絵を見に展覧会へ足を運ぶ。
私は知っている。彼女は、嘘の絵は描けない。
時おり現れる昔の彼女。苦しんでいたり、怒っていたり、悲しんでいたり……。それが真実。そんなとき、私は彼女と連絡を取る。
彼女は驚く。丁度話をしたかった、と言う。
――何故分かったの?
――何故か、分かるのよ。
そう、絵を見れば彼女の気持ちがわかる。
私は、誰よりも詳しい、彼女の絵の専門家だから。
(了)
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