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 夜もだいぶ遅くなってきました。お嬢さんはそろそろお家の寝床に帰らねばならんでしょう。夜更かしは美容の敵です。  弁当箱や魔法瓶を包み、帰りの支度をしているとどこからかバイクのエンジン音が響いてきました。10台近くのバイクがビルの裏手に集積してきました。ヘッドライトとエンジン音が夜の暗さと静けさを打ち払います。オレはお嬢さんをつれて階段の裏に隠れました。  暴走族かヤカラみたいな連中がなにやら騒いでいます。まだ生き残っていたのかゴキブリ。まったくしぶとくてかなわんな。さっさと高速道路なり峠なりを攻めに行けよ。オレがお嬢さんの身の安全を案じ、奴らに呪詛を送り付けているあいだ、お嬢さんは奴らの話を聞いていたようです。お嬢さんの耳に下世話な声を届けるなんてなんと罪深いやつらだ。全員ヨーグルトを食べて腹を下してしまえ。 「様子がおかしいですね」  お嬢さんに言われてオレも少し奴らの様子を観察することにしました。腐った果物たちは総じて十代後半から二十代に至らないくらいの若い奴らが多いのですが、よくみると全体的に年齢が高く見えます。空気の抜けかけたバランスボールのような体系の中年男が愚連隊の前に立ち、士気を高めていました。族の頭としては年増すぎます。 国…、政治が…信用ならない。いまこそ一致団結して…。  奴らの声は雨水が排水溝に流れ込むようなガサガサとドロドロで不愉快の権化であり、早春の野原を歩いているようなポカポカとしたお嬢さんの素敵な声とは比べ物になりません。故にほとんど聞き取れませんでしたが、どうやら国の政治に不満のたまった連中の決起集会だったようです。  頭の演説は徐々にその熱を増していきます。仲間たちもそれに中てられて応と相づちを挟みます。オレは奴らが嫌いです。奴らの目はヘッドライトに照らされているのにも関わらず樹の洞のように暗いのです。腐ったの樹の洞の中に利になるものなぞあるわけがないのです。  ここに居続けてはいけない。オレはそう感じました。「オレが奴らの気を引きますので、その隙に帰ってください」とお嬢さんに伝え、オレは得意の鳴きまねで奴らの前に躍り出ました。 「にゃーお」
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