6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
駅前に着くと、カップルの姿がいやに目についた。どうにも居心地が悪い。俺はやや肩をすぼめながら、甘ったるいバウンドケーキのような群衆の中を進んだ。
休日というせいもあってか、駅前は混雑していた。歩くたびにだれかと肩がぶつかりそうになる。
ここからあのアホを見つけるのは不可能かと思われたが、あっさりと出会うことができた。
迷惑なほど目立つ、白いスーツ姿に俺は踵を返したくなった。
「早すぎだっつーの」
開口一番わけのわからない注意を受け、俺は反射的にスマホを出して時刻を確認する。待ちあわせの時間の五分前だ。別に早すぎではあるまい。
「普通、三十分ぐらい遅れるだろ。『ごめーん、待った?』『だいじょうぶ、俺も今きたとこだから』みたいな展開あるじゃん」
そんな普通があってたまるか。
気持ち悪い一人芝居を披露し、伊野瀬はこの日のために準備してきたのであろうバラの花束を俺に差しだしてきた。
「まあいいや。じゃ、初デート記念という形だから、まずはこれを受けとってくれ」
最初のコメントを投稿しよう!