第一章

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「まあね。でも、あかりにお断りされたから、ちょっとへこんだ」 「……なんか、ごめん」 「うそうそ。ほら、行こう」 なつみは笑いながらそういい、あかりの手を取って歩き出した。なつみとあかりは全国チェーンで展開されているコーヒー専門のカフェについた。それぞれ飲み物を注文し、空いている席に座ると、おもむろになつみが紙袋を差し出した。 「あかり、これは私からの合格祝い。お祝いしたの私が一番だね」 その紙袋に描かれたブランドのロゴをどこかで見たことがあった。あっ、と目の前にあるものを見て思い出した。それは、なつみが愛用しているバッグだった。 「何?開けていい?」 「どうぞどうぞ」 紙袋の中からは、長方形のきれいで丈夫そうな箱が出てきた。その箱を開けると、そこに入っていたのは財布だった。あかりが好きなピンク色を基調としていてワンポイントとして花のかたちのビジューがあしらわれていた。あかりは、そっとその財布を手に取った。 「どうせ受かるだろうと思っていたから、準備はしていたんだけど。どうかな?」 あかりの世代に合わせたブランドを選ぶのではなく、自分の好きなブランドの中から選ぶところがなつみらしかった。 「かわいい。ありがとう、なっちゃん。大切に使うね」 「あかりずっと同じ財布持っているでしょ」 「だって、お気に入りなんだもん」 あかりはバッグの中から財布を取り出した。その財布はあかりが十六歳になった誕生日プレゼントとして、なつみが買ってあげたものだった。あかりは、買ってもらったときからずっとその財布を気に入っていて、今まで買い替えたことがなかった。 「でも、このお財布も気に入った。なっちゃんセンスいいよね」 「あかりの好きな雰囲気を知っているだけ。それにしても、あかりが社会人かぁ。しかも看護師って。あんなに泣き虫だったのに」 「ちょっと緊張するけど」 「最初はみんなそんなもん。経験して慣れていくんだよ。私はいつでもあかりの味方だから、絶対に途中で諦めることはしちゃだめだよ」 「うん。頑張る」 「じゃあ、帰ろうか。今日はお母さんのおいしいごはんだろうし」 「ホットケーキもお願いしたよ」 「また?朝も食べたじゃん」 「だって、好きなんだもん」
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