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「待って、ホットケーキじゃん。美味しそう。食べていい?」
「ほら、はちみつ」
麻里子はホットケーキがのった皿のとなりに、はちみつを置いた。あかりは最初に、はちみつをつけずにホットケーキを口に運んだ。
ふわふわの触感とほんのり甘さが、口の中で広がった。これだけでも十分おいしい。次にあかりは、はちみつをかけて食べた。はちみつがかかったホットケーキは、甘みが増してしっとりとしていた。
「うん。本当に美味しい。お母さんのホットケーキ食べると、なんかホッとするんだよね……あ、ホットケーキだけに?」
「ふふふ。ダジャレもいえるくらい落ち着いたみたいね」
あかりは、先ほどまであれほどそわそわしていたというのに、麻里子のホットケーキを少し食べただけで、緊張が和らいでいた。
そして、そのままキッチンに立ち、出来上がったホットケーキを皿に盛り付ける手伝いをした。時刻は午前六時になろうとしていた。
あかりがホットケーキを盛り付けた皿を、全員分食卓テーブルに並べたところで、誰かがリビングに向かってくる足音が聞こえた。入ってきたのは、早川家の長女である、なつみだった。
「なっちゃん、おはよう」
「あかり、やっぱり起きていたのね」
やっぱり、というのは緊張したら眠れないのはあかりの小さい頃からの癖だったからだ。習い事として通っていたピアノ教室の発表会であるとか、運動会など何か特別なことがある日の前日は、たいてい眠ることができなかった。
昨日こそ、誰にも迷惑をかけずに一晩過ごしたが、今までは緊張して眠れない日は、なつみの部屋で過ごすことが多かった。そのたびになつみは、睡眠を妨害されるわけだが、十歳も離れた妹を放ってはおけず毎回付き合ってあげていた。
「昨日は私の部屋に来なかったね?」
「行こうと思ったけど……なっちゃん、お疲れ気味な感じだったから」
本当は昨夜もあかりは、なつみの部屋に行こうとしていたが、仕事から帰ったなつみの表情が疲れた様子でいたのと、今日も仕事だと知っていたあかりは遠慮していたのである。
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