第一章

3/9
前へ
/11ページ
次へ
「最近、貧血気味なんだよね。立ち仕事だからかな……気を遣わせたみたいでごめんね」 なつみは自分の席に座りホットケーキを頬張りながら、あかりに謝った。 「いや、私はいいんだけどさ。貧血気味って、なっちゃんは大丈夫なの?」 「なつみ、気を付けなさいよ。最近は風邪も流行っているみたいだし……」 「うん。気を付ける」 三人で朝食を食べながら話していると、早川家の大黒柱である進一が起きてきた。 「お父さん、おはよう」 「進一さん、早く食べなきゃ、今日もギリギリよ」 やばいやばい、と言って進一は自分の分の朝食を勢いよく食べ始めた。進一は、早川家が暮らす区内の区役所に勤めている。 「そういえば、あかり。いよいよ今日だな」  伸一は、思い出したようにあかりに話しかけた。 「お父さん、それ禁句。またあかりの調子が悪くなっちゃうよ」 「そうだそうだ。ごめんな、あかり」 十分ほどで朝食を食べ終えた進一は、急いで身支度を整えた。 時刻は七時三十分。 進一は歩いて十分ほどの最寄り駅から二十分かけて、職場である区役所へ向かう。区役所の最寄り駅から区役所までは徒歩約十分だ。 自家用車通勤も可能だが、区役所では職員用の駐車場は設けられていない。自家用車で通勤するなら、近くの駐車場を自費で借りなければならなかった。 駐車場の借用料金に月二万円も出すより、電車を利用した方がいいといって、電車通勤をしている。区役所の始業時間は、八時三十分である。進一は慌てて家を出て行った。 「合格発表って、どうやって見るの?」 朝食を食べ終えたなつみとあかりは、ソファに並んで座っていた。 「ネットでも見られるんだけど……家で見るのなんかいやだから、直接見に行こうかな」 「今の時代、何でもネットでできてすごいわよね。お母さんたちの時代では考えられない」 麻里子はベランダで洗濯物を干しながらいった。 看護師国家試験の合格発表は、厚生労働省のホームページに掲載されることになっている。そのほかにも、直接掲示板に張り出されるものを、見に行くこともできるようになっている。 「一緒に行こうか?私も見たい」 「いいよ別に。よけいに緊張する。それに仕事でしょ?」 「だったら、結果がわかったら教えてよ」 「わかってるよ」 「じゃあ、行ってくるね」 行ってらっしゃい、といってあかりはなつみを見送った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加