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 2015年 9月2日 午前0時00分   その者は目を開けられました。 「刻限というのはいつも、経ってしまうと短いものだ」  上空一〇〇〇〇メートルの虚空に立つその者は、姿を持たず、それでも白を基調とした身なりの良い服装と、少し背の高い帽子を被っていました。 「そして今になって思えば、もう少し時を与えても良かったのではと、考えてしまう」  生き物が単身で存在するには少々高すぎる場所で、悩ましげな溜息を吐くその者。  服の胸ポケットからチューリップを取り出して、愛おしそうに眺めます。 「けれど、それでも約束は約束だ。歩き出さなければならない」  ゆっくりと。その者は足を出しました。  上空一〇〇〇〇メートルの虚空を踏みしめながら、目的の場所へと向かいます。 「金の時代を過ぎ、銀の時代を流れ、青銅の時代を越えて、英雄の時代を渡り、そして鉄の時代がやってきた。おっと、こんな事を言うと彼らに怒られるかもしれないな」  その者の足の下、遥か一〇〇〇〇メートルより更に下の地中に、その者の落とし児たる存在の初めの一つが到着しました。けれどその者は足を止めません。 「世界各地の私達も(、、、、、、、、)、きっと今頃こう思っているに違いない」  姿の無いその者は、無貌(むぼう)の顔に期待を乗せて、大らかにこう呟きます。 「四つの太陽の内、二つは滅びた。さあ、鉄の子らよ。第一の試練の始まりだ」  
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