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人が一人入れそうなやたらと大きい荷物用のリュックを背負って、作業服という格好のまま安物の250のバイクに跨り、コンビニに寄って大盛りのシャケ弁と一番度数の高いウィスキーとライ麦製のウォッカを買い、たまには昇る朝日を見ながら飯でも食うかと、薄明るくなってきた東の空を眺めて家からほど近い土手に向かっていた。
途中、端末がポケットの中で震えたが、彼には友達と呼べる人間はおらず、携帯端末に登録されているアドレス欄には知り合い程度の連中が数人記録されているだけだから、完全に無視を決め込んでバイクを走らせていく。
(どうせ迷惑なメールだろうし)
ひょっとしたら家族からかも知れない、という考えが彼にはない。児童養護施設出身の彼は家族というものを知らないから、その考えが生まれない。
田舎というほど田舎でもないが、都会というほど都会でもない、海が近い窪地の杵島市を通る国道から、名前も付いていない倉庫街の細い道をすり抜けて土手を上る。
エンジンを切り、フルフェイスヘルメットからぼさぼさの短髪頭を引っこ抜き、バイクをのろのろと押して目指すのは、河川と並行して走る高架橋脇に設置された、簡素な遊具がある小さな公園だ。
(たまには外で、広々とした所で飯を食うのも悪くないよな)
自宅アパートの1K六畳の手狭な部屋で毎日一人食べるご飯より、幾分か健康そうな選択にちょっとした満足感を覚える天月天は、(と言っても、この土手沿いに自宅のアパートがあるのだから、眺められる風景に大した差はないのだが)白みがかった空を僅か見上げて再び足を動かす。
階段近くにバイクを止めて、以前と同じ轍を踏まないようにと種類の違う鍵を三つ付け、デイパックと呼んで良いのか分からない程の大きさのそれを背負い直して階段を下りる。
(やっぱり体が大きいのも善し悪しだなあ)
そんなことを考えながら「高校の時には百九十八センチ位でした?」の身長がある天月天は階段を下り切った。正確な数字なんて彼には分からない。自分はでかい。それさえ分かっていれば彼にとって不都合が無いからだ。
「まあ、この体だから肉体労働でお金を稼げるんだろうけど……」
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