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――ああ、殺人現場に居合わせたのか。彼は静かにそう思った。
「何者?」
脇腹に硬い銃口を押し付けてくる細い声の主。
少し首を動かして、それから限界まで眼球を端に寄せて斜め後ろに居る声の主を窺ってみれば、それは背の大きい自分と比べても随分と小さい外国の女の子のようだった。
不自然に黒過ぎる服。赤茶けた髪に細い肩。
それに反比例して、しなやかな筋肉が服の上からでも分かる程度に全身を覆っている。
(この子が殺したのか)
天月天はぼんやりとそんな事を考えてから、ちらと彼女の眼を見た。
「……」
言葉にするなら、凄い眼をしていた。
暗く、汚く、おぞましい、黒い光を湛えた、色の薄い赤い瞳。
二十一年しか生きていない自分より年下に見える女の子がする瞳の色じゃないと彼は思い、小さく「酷い」と言葉が口をついて零れ出た直後、
彼は運命を感じた。
この子とは一緒に居なければならない、と。
直感と言って詰まらなく、一目惚れと言って下らない、瞬間の思い込み。
だとしても、天月天には正に運命だった。
こんな状況で彼は、その薄汚れた瞳に心を奪われたのだから。
しかし、天月天の心の動きなど、当の彼女には関係無い。彼女は眉を動かすことも目を細める事も無く下顎の吹き飛んだ死体に一瞥をくれると、彼に返答する様に口を動かした。
「酷い……そんな言葉を吐くっていう事は、あなた一般人?」
「ってことは、君はプロか」
彼女は天月天の言葉を聞くとほんの少しのあいだ口を閉ざして、
「そう。なら仕方ない」
一瞬の迷いも、僅かな葛藤も、閃くような躊躇いもなく、彼女の指はエレベータのボタンを押すより簡単に、トリガーに掛かっていた。
(一般人の処理は面倒だが、見られてしまったのなら……)
その思いは今から人を殺そうとする人間のものではなく、シンクの三角コーナーにたまる生ごみを見たような、うっとうしささえ感じる思いだった。
だが。
状況は転がる。
「なっ!」
警察へと電話するために彼が手にしていた携帯端末。カシャ、というあまりにも間の抜けた電子音。それと同時に激しく光る端末のライト。
閃光だった。
不意を突かれた彼女の眼が眩み、ほんの僅か動きが止まる。
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