悪い虫

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ふっと笑みをこぼし、背筋を伸ばしてゆっくり歩いてくる。 私の、婚約者。 年下の私を甘やかしてくれる、大好きな人。 店長が言ってたのは、薫くんのこと? 「いらっしゃい、片桐君」 「斎藤さん、すみません」 カウンターの前に立った。 「よっ、お疲れ」 「うん、今帰り?」 「ああ、着替えてきたけどな」 ですよね。そのスーツ、通勤用じゃないってわかる。 「片桐さん、なんかお久しぶりですね」 「そうか? ああ、伊藤は久しぶりだな」 店長は二つコーヒーを入れて、薫くんといつものソファ席に座った。 閉店時間になり、店長はまた一木君に声をかけた。 「はーい。葛城さん、またね」 「咲子の知り合い?」 立ち上がり、出ていこうとする一木君が足を止めた。
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