姫王子とは結婚できない

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「貴公、一体何者だ?」 「呪われてるんです。生まれつき」  出身地で百年に一人ほど生まれる「蛇神(じゃしん)に選ばれた子」。それがハルだった。しばしば暴走するこの呪われた力を、当然、同郷の者は不気味がり恐れたし、家族にもまるでよその子のように素っ気なく扱われてきた。そんな経験から、ハルはこれまで人と深く関わってこなかった。  呪いからは一生逃れることはできない。各地の怪物を倒すのは、この並外れた力をせめて人のために生かそうという罪滅ぼしだ。 「今回も効かなかったみたいですね」  小袋の鷲を手のひらに出すと、王子が唇を引き結んだ。木でできた不細工な鷲は、呪いに敗北したかのように羽の部分が折れていた。ハルは壊れたお守りをギュッと握った。  お守りは気休め。奇妙な物事に惹かれるのも、自分への慰めになるから。  ハルの裏の姿を目の当たりにし、ここまで話を聞いてもなお、王子は()()ぐに視線を注いでくる。誰かと心の距離がこんなに近いのは初めてだ。どう受け止めたらいいのかなんて知らない。ただ、胸が痛かった。 「俺の呪いで貴方を苦しめたくはない。それに、嫌々女装をしている貴方を見るのは忍びない。今回の結婚、お断りさせて下さい」  そうか、とクオート王子はうつむいた。静寂の時が流れ、やがて、彼は結婚話の目的について語り出した。  王の真意は不明だが、今回の件は、優れた勇者をジェールのものにしようという政略結婚だったらしい。怪物退治の武勇伝はいくらか持っているので、理屈は通る。ただし、破談した場合は他国の手に渡る前に勇者を殺せとまで言われていたようだ。  ハルはクオート王子を見た。彼は一片の殺気もない穏やかな目をしていた。 「私も、お前を殺すのは忍びない」  何かしらの情を含んだ声が、ハルの頭にこだました。
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