姫王子とは結婚できない

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 ハルが(いとま)を告げると、王子が影のように追ってきた。昨日と同様に廊下の端に寄る。 「貴公、父上達の前でよくもあんな」 「クオート王子」  ハルは自分より僅かに低い宝石のような瞳と目を合わせた。 「誰かと正直な気持ちで過ごせたのは昨日が初めてです。一日ご一緒して、貴方なら悪くないなと思ってしまいました」 「……男同士だが?」 「そうでしたね。女同士かと思ってました」  王子は黙って視線を床に落とした。微妙な空気が広い廊下を支配する。  彼とは、これっきり。ハルは1つ深呼吸して、努めて軽い口調で言った。 「一度、王子と旅をしてみたかったですね。貴方なら怪物も倒せそうですし」  では、と別れかけた時、名前を呼ばれた。ハル、と。 「私も、久々に肩ひじ張らずに過ごせた。礼を言う」  クオート王子は硬い表情だったが、その頬は微かに染まっていた。ためらいつつも、彼は両手でハルの顔を包み込む。ジェールのアメジストは愛にも効くというが、まさか。  王子の整った顔が近づき、額にそっと口づけられた。息が止まった。 「旅の話、楽しみにしているぞ」  アメジストより魅力的なブルーの瞳が、静かに輝いていた。
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