姫王子とは結婚できない

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 *  ジェール王国はコチョコチョと存在する小国の1つだ。特に目を引くような建物はなかったが、なだらかな丘に広がる城下の赤茶色の町はまあまあ整備されていて、昨日王都に来たばかりのハルは好印象を受けていた。  初夏の太陽が真上に昇る頃、ハルと姫王子はその町へと繰り出した。衝撃の縁談からすぐのことだ。王族が得体の知れない人間と結婚するのはどうかと、やんわり断ろうとしたところ、「知らないものは知ればいい」と言われこうなった。こうなった、と強調したい。 「俺、変じゃないですか?」  変だと断言され、ハルは苦笑して自分の茶髪のカツラを()でつけた。男女の町歩きは目立つからと、拒もうとした結果、こっちまで女装させられたのだ。町娘風の茶色いワンピース姿の自分と、もう少し上質な紺のワンピースの姫王子。すごく奇妙な状況だ。普通ではない奇妙なものは人生を明るく彩ってくれると、ハルは常々思っている。しかし、今回ばかりは暢気(のんき)に面白がっている訳にもいかない。 「……同性との結婚か。考えたこともなかったな」  20代半ばにして結婚自体眼中になかったのだが、これは想像すらしなかった。 「言っておくが、貴公に拒む権利はないぞ」 「ヒヒッ、参りましたね。でも、おう……姫の方は嫌じゃないんですか? 女装して男と結婚なんて」 「父上には何かお考えがあるのだろう。それが達成されるまで、私は姫を続けるまでだ」  姫王子は淡々と言葉を紡いだ。年下の彼が姫になったのは今日が初めてだそうだが、説得は難しいかも知れない。下手に断れば王の怒りを買いかねないし、どうしたものか。  それにしても、この距離で人と過ごすのは、体がむずむずするようでそれだけでも落ち着かなかった。今まで一人で各地を旅をして一人で怪物と戦ってきたので、その生活にすっかり慣れ切ってしまったのだろう。
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